2010/10/28

この取引はここだけに・・・


  フランスより HAT です。社会人2年目に審査業務部というところにいたのですが、そこでは不動産、株式、債券等を担保に様々なローンを提供していました。上場企業オーナーの顧客で、自社株を担保に結構な額の融資を受けていた方がおり、その方から、「株価が下がっても、担保割れを起こさない仕組みを作れないか?」という依頼がありました。

  日本の場合、企業オーナーは株価が下がると思っていても、中々保有株を手放さず、暴落時でも何もしないという方が結構います。この方は新し物好きということもあって、色々な取引を試してくれました。

  前職はデリバティブに強かったこともあり、顧客にプットオプションを買ってもらい、それに質権を設定する(オプションを担保にする)提案を行いました。これにより、株価が下落してもプットオプションが防波堤になるため、担保割れを起こさずに済むことになります。

  その後、2001年9月に米国同時多発テロがあり、株価が暴落したのですが、この仕組みのおかげで顧客は追加担保を入れる必要もなく、大変喜んで頂きました。この取引では、融資の金利、オプションのプレミアムがこちらの利益となるため、営業担当者もホクホク顔でした。

  この取引が完了した後、営業担当者の方が労をねぎらい、美味しい和食をご馳走してくれました。しかし、彼が放った一言が食事の味を変えてしまったのです。

彼: 「HAT 君、この取引はここだけにしてもらって、他の営業部員には教えないでもらえるかな?」
HAT: 「えっ、どうしてですか?」
彼: 「これが広まってしまうと、他の人も儲けてしまうでしょ。」
HAT: 「まあ、そうですね。」
彼: 「そうすると、東京支店全体が儲けてしまって、来年の目標が上がっちゃうじゃん。」

  彼が言いたかったのは、「この手法を他の営業部員が使うと利益が膨らみ、東京支店全体の収益が拡大するため、来年の収益目標が高くなり嫌だ」ということです。つまり、「俺だけ儲けたい」というエゴを彼は丸出しにしていたわけです。

  前職の経営が行き詰ったのは、この「俺だけ儲けたい」症候群が蔓延していたことがあげられます。こうなると、ノウハウを同僚に教えなくなり、会社全体としては発展が止まります。しかし、教えてしまうと自分の収益目標が上がるので、個人としては教えない方がよい。つまり、「個人にとってはよいが、全体にとっては好ましくない」現象である「合成の誤謬」が社内で発生していたことになります。

  実は、日本社会全体にも同じ現象が起っています。「俺の会社だけ儲けたい」という理由で、法律で定められた有休を従業員に消化させず、社会全体で供給過剰現象を引き起こしています。合成の誤謬を解消するには政府の役割が大きく、有休消化を法律で義務付ければ、お金を使う機会が増え、日本が抱える問題解決になります。

  フランスでストが頻発して、交通は麻痺し、外資系企業は進出をためらい、様々な問題が起っています。ストの目的は、「俺だけいい思いをしたい」ということでしょうが、社会全体では明らかなマイナスです。フランス人に「ストを控えろ」というのは、日本人に「有休を消化しろ」というのと同じなのかなぁと思う今日この頃です。

(写真は、広末涼子主演の映画「秘密」。この頃が一番かわいかったなぁ・・・)

  

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