2010/10/10

戦う民主主義と表現の自由


  フランスより HAT です。最近、話題になっているのはイスラムの伝統衣装であるブルカ(写真参照)です。フランス政府はこのブルカを、「女性を従属させる象徴」として禁止する法案を成立させました(正確にはブルカではなく、「全身を覆う衣装」と法律では定義されている)。

  これについて、フランスの違憲審査機関である憲法会議は、「おおむね憲法違反にあたらない」という見解を示し、来年から公共の場所(学校、公道等)でブルカを着用すると罰金を科せられることになりました(ブルカ着用を強要させると禁固刑もあり)。

  皆さんの中にはこう思う方がいるかもしれません。「あれ?フランスは民主国家でしょ?信教の自由と表現の自由は保障されているはずじゃないの?HAT さん、言いたいことを言いまくるあなたがそんな国にいて大丈夫?」

  日本では信教の自由と表現の自由が憲法で保障されているため、ブルカ禁止法案を制定することはできません。フランスも日本と同じ民主国家なのに、なぜ特定の衣装を禁止させることができるのしょうか。

  今回のブルカ禁止法案の背景には、「戦う民主主義」という概念があります。戦う民主主義を一言で表すと、「自由の敵に自由を与える必要はない」ということです。ブルカは女性を従属させるために、男性が強要させている衣装とフランスでは考えられており(実際にはそうでない場合ももちろんある)、「ブルカ=自由の敵」であると判断された訳です。

  戦う民主主義の概念からすると、ブルカを着たり、強要させる者は自由の敵であり、彼らに自由を与える必要はなく、法律によって取り締まるべきということになったのです(ブルカ着用者は中に何を隠し持っているか分からず、テロリストに都合が良い服装だから禁止されたとする説も一部にはあり)。

  戦う民主主義は、元々ドイツで生まれました。ドイツでは、ヒトラーやナチスを肯定すると刑法によって裁かれます。ヒトラーやナチスは「自由の敵」であり、彼らを肯定する者に自由を与える必要はなく、法律によって罰する必要があると考えられたのです。フランスでも、ホロコーストを否定すると刑法で罰せられます。この様な歴史的背景から、欧州では戦う民主主義に基づいて法律を制定している国が多くあります。

  戦う民主主義については、様々な議論があります。一つ例を挙げると、ホロコーストでの犠牲者数について自由な検証ができないというものがあります。戦後、ドイツ軍が資料を残さなかったこともあり、ホロコーストの犠牲者数について複数の説があります。ある人が調査を行い、「犠牲者数はもっと少なかったはず」という説を仮に唱えると、「ホロコースト否定論者」としてドイツやフランスで罰せられる可能性があるのです。このような状況から、歴史学者によっては自由な議論を求めて、アメリカに移った人もいます。

  私も欧州に来るまで、「戦う民主主義」について中々理解ができませんでした。表現の自由を多少犠牲にしてでも、別の自由(とされるもの)を守ることが正しいとされる社会に初めて住んで、戦う民主主義が少しずつ分かってきました。「戦う民主主義」と「表現の自由」、この相反する考えについて皆さんはどのようにお考えでしょうか。一つ言えることは、日本は世界的に見ても、表現の自由が固く保障されている社会ということでしょう。

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