2010/05/16

ロンドンでエンロン



5月12日から5月14日まで学校が休みになり(なぜ休みになったかは未だに分からない)、急遽イギリスはロンドンへと旅立った。以前一緒に働いていた同僚に連絡して、会えることになったからだ。ニューヨークで債券取引の仕事をしていた時、毎日ロンドンと取引していたが何故か一度もイギリスには行ったことがなかった。

現在、その人は違う会社に勤めており、以前よりも元気そうで、面白い演劇があるので見に行こうという話になった。その演劇のタイトルは「エンロン」。ご存じの方も多いと思うが、2001年12月に不正会計が明るみになって破綻した米国の大手エネルギー企業である。この演劇では、エンロンがどのようにして粉飾会計を行ない、市場を欺いていたかを赤裸々に表現していた。

エンロンが破綻した翌年の2002年から私はニューヨークで働いていたのだが、勤務先であった証券会社がこの不祥事に関与していたことが明らかになり、大きな混乱が巻き起こったことを覚えている。エンロンはありもしない電力、ガス取引を売上計上し、様々な株価吊り上げ策を行なっていたとされる。証券会社のアナリスト達はこの問題を知りながら、投資家にエンロン株買いを推奨していたことが発覚したのである。私の勤務先のCEOが逮捕されるのではないかという報道が一時飛び交ったが、結局はアナリスト達が解雇されることで問題は終息に向かった(いつの時代も犠牲になるのは、最前線の人達である)。

エンロンが注目されたのは、CFOが直々に不正会計処理を指示していた点である。エンロン財務部の担当者達はCFOからの指示を拒否できず、不正に手を染めることになった。大学の授業でもエンロンが取り上げられたことがあり、「君達は取締役から不正の指示を受けた時、きちんと断れるか」という質問が教授から浴びせられた時、学生の殆どは「断る」と答えていた。しかしながら、授業の後半で「ミルグラム実験」という心理学実験の内容を知らされ、人間は権力者の愚かな命令に対して、半分以上の人が「間違っている、悪い」と思いながらも従ってしまう可能性を秘めていることが明らかになっている。

その教授はもう一度私達に問いかけた。「君達は学生で、家族を養っている人は少ないだろう。だが、実際に住宅ローンを抱え、子供の養育費や月々の支払いに迫られている状況になっても、本当に断れるだろうか。人間というのはそんなに強いものではないことを、エンロンのケースは語っている。今後、君達は組織を率いる立場になるだろうが、間違ったことはちゃんと間違っていると言える勇気を持つことがリーダーには必要だ。」

これに対してある学生が、「間違っているかどうかは何を基準に判断すればいいのでしょうか?エンロンは会計処理について、会計士や弁護士に意見を取って判断していました。法的な問題はないと言われて、中々拒否できる人はいないと思います」と質問した。それに対して教授は、こう返答した。「その処理を行なうことについて、君が堂々と家族に話せるかどうかがポイントではなかろうか。自分の大切な人や愛する人に対して、自分の仕事を誇らしげに語れる場合、不祥事というは起こりにくい。」
その話を聞いた時、自分の勤務先であった金融機関が起こした様々な問題を思い出した。異常な取引と分かっていながらカラ売りを続け、市場を欺いた債券トレーダー。下落することが明らかな商品を売りつけるデリバティブ担当者達。
演劇「エンロン」を見た後、かつての同僚がポツリと漏らした。「あの会社を出て本当に良かったよ。君も学生になって、元気で幸せそうだ。」彼はとても誇らしげだった。

2010/05/01

【ESSEC通信 Vol.3】パリの郊外で寿司への愛を叫ぶ 

<親日国:フランス>
私自身、欧州を訪れたのが過去一度(なぜかブルガリア)だけで、フランスは初めての訪問になります。日本のアニメ等がフランスでは受け入れられており、日本に対しては友好的というメディアの情報が果たして本当かという気持ちを持っていたのですが、この点については報道が正しかったようです。少なくとも私の接するフランス人は皆友好的で、私が読んでいるフランス語版の村上春樹の小説を見ると、「私も読んだよ!」と話しかけてくる人もいるくらいです。


<食事>
フランスに来てからというもの、ほぼ毎食自炊をしております。こちらは外食が基本的に高いのですが、スーパーで売られている食料品が日本に比べて安価なため、自炊をしたくなる環境にあります。キャンパスの周りにも余り食事をする場所がないため、お昼も弁当を持参している状態です。フランスに来て一番辛いのは、美味しいお寿司を食べられないことかもしれません(涙)。


寮には台所があり、大きめの冷蔵庫も設置されているため、日々料理研究家のように格闘しております。こちらはパスタソースが豊富なため、トマトソースやカルボナーラを作ることが多いです。中々腕も上がってきましたので、フランスに来ることがあれば、是非食べに来て下さい。


週に一回は作るカルボナーラ。
上にまぶすチーズによって味も変わります。

<学校>
 エセックはKBSと同じ3学期制になっており、授業が行われる時間帯もよく似ています。KBSと大きく違う点は、教室の机にパソコン用電源がなく、殆どの学生がノートで授業に臨んでいる点です。因みに、今学期の私の履修内容は以下のようになっています。
月曜日:9:00 – 12:00Organizational Behavior
組織論に近いが、ミクロな問題を多く取り扱う授業。「仕事以外のことは話さず、挨拶さえろくにしない上司にあたったら、君はどうする?」等という現実には考えにくいケースもある。「遅刻した人は教室に入れない」ルールがある授業だが、この間教授が遅刻していた。

火曜日:13:00 – 16:15French for beginners
エセックの授業で最も難しい(?)といっても過言ではないフランス語の授業。必修ではないため、受けなくても卒業は可能。二週間に一度テストがあるのだが、授業で取り扱っていない内容も平気で出題される。笑顔が素敵な女性教員が担当しているが、履修した者は皆、「彼女の笑顔にだまされるな」と語る。

水曜日:授業なし
 午前中は近くの映画館に行くことが多い。平日の午前は人がいないため、シアターを独占状態。しかも学割がきくため、料金が4.90(約600円)と非常に安い。但し、食料持ち込みが不可であるため、どうしてもお腹が減っている時はポケットに入る程度の食べ物を隠して入館する。午後は翌日の準備をしたり、村上春樹のフランス語版を読んだりする。村上作品はほぼ全てがフランス語訳されており、こちらにいる間に全巻読破することが目標である。


村上春樹の代表作「ノルウェイの森」のフランス語版。
フランス語の題名は「ノルウェイの森
(Le bois de Norvege)」ではなく、
La Ballade de I’impossible」。
「不可解なバラード()」とでも訳すのか?

木曜日:16:30 – 19:30Strategy and Management
 履修者40名中39名がフランス人。つまり外国人留学生が私一人で、凄まじいアウェイ感を味わう授業。英語の授業のはずなのに、時折フランス語が飛び交う。授業用の資料がメールで配布されるのだが、どの学生がきちんとダウンロードしているかをチェックするのが趣味という、ちょっと変わった教授が担当。

金曜日:9:00 – 12:00Management Control
 どこかで聞いたような授業(?)だが、こちらでは課題のケースに対して事前にプレゼンスライドを毎回教授に送る形になっている。二人一組でグループを組み、内容の濃いスライドについては授業でプレゼンを行なう。比例縮尺や因果関係図を用いたスライドは評価され、KBSの底力を感じる授業でもある。因みに、同じグループの中国人留学生Yonglian Yang 9月にエセックからKBSにダブル・ディグリーとして派遣される学生なので、皆さん仲良くしてあげて下さい。

番外編:一週間集中授業:Negotiation Workshop
 エセックには「Intensive one-week courses」という仕組みがあり、一週間連続で授業が行われる期間がある。この授業では具体的な交渉術を学び、アフリカの産油国との利権交渉から、工事現場がうるさいと騒ぐ住民をなだめる建設会社社長役まで、あらゆる想定のケースが用いられた。
Negotiation Workshop」の授業で使われた教科書。
去年の二学期にKBSで受けた「経営法学(隅田先生)」
の授業で行った交渉術の理論にも通じるものがあった。

著名なコンサルタントでもある教員が強調していたのは、「時間に遅れるな、信頼関係を作れ、コミュニケーションを取れ」という当たり前ともいえる三点である。授業中、グループワークの後でそれぞれの交渉に入るのだが、意見がまとまらないグループもあり、時間通りに交渉が始まらなかったりする。時間に遅れたグループは遅刻への謝罪をして交渉を始めたり、謝罪しない場合は相手側から遅刻の理由を問い詰められたりする。面白いことに時間に遅れたグループはこの時点から明らかに不利な立場に陥り、定刻通りテーブルについていたグループが殆どの場合有利に交渉を進めていた(遅刻すると9割近い確率で交渉に負けることが立証されているらしい)。
時間に厳しい社会にいた者からすれば定刻通りの開始は当然であるが、そうでない社会においても、「時間にルーズな者は負けるのである」とフランス人である教授が力説していたのは意外である。彼によると、時間を守る人間は信頼され、コミュニケーションが円滑になるため、長期的な関係が構築できるとのことである。人間関係において、第一印象が最後まで尾を引くことは実証済みであるが、遅刻は第一印象を最悪にする要因であるそうだ。「フランス企業の国際競争力低下は、時間にルーズであったことが大きい」という持論を説き、「時間に遅れてくる恋人と付き合っている奴は大事にされていない証拠だから、今すぐ別れろ」という乱暴な発言もあったが、非常に興味深い授業であった。

<中田英>
 KBSにあってこちらにないものは、ある種異様とも言えるグループワークの一体感かもしれません。KBS時代は皆が全力疾走していて、自分も同じようにやっていて余り気付かなかったのですが、あのような場にいられたのは非常に恵まれていたと最近感じております。ドイツW杯で日本代表の選手達が足を止める中、一人で走っていた中田英を見習い、こちらでも周りに流されず、自分のペースでやっていきたいと思います。皆さんもこちらに来られた時、私がさぼっているように見受けられた場合、「中田英を見習え!」とお叱り頂ければ幸いです。

ドイツW杯、一人で走っていた中田英。
こちらに来て改めて思いました。あなたは実に偉大です。