2010/09/27

マルクスは生きている?


  フランスより HAT です。昨日、エッフェル塔に行ってきましたが、公務員が大きな集会を開いていました。政府に対して、何らかの要求をしていたようです。先週の水曜日は、ストライキによって大幅に鉄道ダイヤが乱れ、皆疲れ切った顔で時刻表を眺めていました。このことを米国からの留学生に話すと、「フランスは社会主義国だからね」とつぶやいたのです。医療でさえ民間に任せている米国人から見ると、そう感じたのでしょう。

  私がアメリカで働いた時、最初にしたのは医療保険会社の選択でした。アメリカでは医療保険料が保険会社によって異なり、安い保険料しか払えないと高度な医療を受けることができません。私が検診を受けるため歯科医に予約をしようと思ったら、「3ヵ月先しか空いてない」と言われ、愕然とした記憶があります。米国では、基本的にかかりつけの病院以外で医療を受けるのは難しいため、このようなことが起きます。憤慨した私は米国人の同僚に、「国民健康保険がないのはおかしい」と話したのです。それに対する彼の返答は、「お前は社会主義者だなあ」というものでした。

  意外かもしれませんが、ウォール街で働く人々は社会主義や共産主義についての文献を良く読んでいます。多くの金融機関経営者は、マルクスの「資本論」を熟読しているほどです。あるCEO経験者によると、今回の金融危機は「資本論で書かれていることがそのまま起ったのであり、金融に携わる者はマルクスのことをもっと勉強するべきだ」と唱えたほどです。

  マルクスは資本論の中で、「労働者(従業員)をより効率的に搾取するために、資本家(企業)は自身の数を少なくしようとする」と述べています。つまり、合併によって企業数が少なくなり、一企業当りの従業員、顧客は多くなるので、搾取の度合いが促進されていくというものです。これにより、資本家(企業)はますます儲けることになりますが、労働者(従業員)はより効率的に搾取されるというのです。

  但し、ある場面に到達すると資本家の数はごく少数になり、圧倒的多数の労働者が資本家を倒すとマルクスは言います。ここでいう「倒す」とは、民主的な政治手続きではなく、暴動やクーデターのような形で、労働者が資本家から富や資産を奪い返すことです。マルクスは、「資本家は最初、暴力や略奪等で資産を手に入れたのだから、労働者がクーデターでそれを奪い返すのは当然だ」的な主張をしています。これが実現した後、社会は理想的な共産主義になるとマルクスは予想したのです。

  欧米、日本もそうですが金融機関に限ると、合併の歴史といえます。金融機関が合併する大きな理由の一つに、金利競争がなくなる点があります。住宅ローンを借りる場合、家の近くに3つの銀行があるとしましょう。この場合、A銀行は1%、B銀行は2%、C銀行は3%とそれぞれ異なる住宅ローン金利を提示します。

  しかしながら、3つの銀行が合併してしまうと選択肢がなくなり、合併後のABC銀行が提示する高めの住宅ローン金利に応じざるをえなくなります。これは実際に日本でも欧米でも起っており、マルクスが唱えた「より少ない資本家がより多くの労働者を搾取しようとする」ことが、銀行の合併という形で的中していることになります。

  一方で、怒った労働者が資本家を倒し、理想的な共産主義社会が到来するというマルクスの予想は現時点で当っていません。主要な資本主義諸国は法治社会で、政府が強力な軍隊を保有しているため、クーデター等の非民主的な形で政治、経済体制が変わる可能性は余りありません。また、米国は共産主義を毛嫌いしていますし、ドイツの様に憲法裁判所が共産党を解体させた国もあります。このため、マルクスの理想はかなうはずがないと考えられているのです。

  今回の金融危機は、合併を繰り返した銀行が自分にとって都合の良い商品を開発することで発生しました。そのつけを払わされたのは納税者であり、マルクスの言う「少ない資本家、多くの労働者」理論は部分的に的中しました。しかしながら、社会はより複雑化し、どのような形が最も良い政治、経済体制なのかは未だに議論されています。最近では、漫画でも「資本論」が読めるようになっています。これから資本家(?)になる皆さんにとっても、興味深い文献だと思います。 
 

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