2010/09/25

ユーロと愛とサルコジ


  フランスより HAT です。先週末、レンタカーでドイツへ行ってきましたが、その際に色々と新しい発見がありました。一番の感想は、国境というものを殆ど感じなかったこと。フランスとドイツの国境を越えたのが深夜だったこともあり、気が付いたらドイツという感じでした。車を運転していた韓国人によると、ドイツに入る直前にフラッシュがたかれ、写真を撮られたので、カメラを使って入出国を管理しているのではないか、とのこと。私からすれば、それは入出国管理ではなくスピード違反を取り締まるオービスではないかと思ったのですが、まあそれは良いでしょう。

  ドイツもフランス同様、ユーロ加盟国であるため、当たり前ですがユーロがそのまま使えました。周りのフランス人に、「ユーロを導入して良かったと思うか?」と尋ねると、多くの人が「良かった」と答えます。その理由として、「ユーロ圏に行った時に価格差が良く分かるので、買い物がしやすい」というものが一番多い気がします。私自身、ドイツに行って感じたのは、「ドイツって水が高いのね・・・」ということです。フランスは世界一の水大国であり、1.5Lの水でもスーパーに行けば50セント以下で買えます。しかしながら、ドイツでは3倍近い1.4ユーロもしました。水と同じく、ガソリンの値段もユーロ圏各国によって異なり、国境近くに住む人はガソリンの安い国にわざわざ行って、調達することが一般的になっているようです。

  この点だけを見ると、「ユーロ成功!」と無邪気にはしゃぎたくなるのですが、実は大きな問題も抱えているのです。フランスとドイツにおける水のように大きな価格差がある場合、両国の通貨が異なれば、為替変動によって調整が行われます。水の価格が低く安定しているフランスの通貨が上昇し、水が高いドイツの通貨が下落することで、両国の物価が調整される訳です(正確には様々な要因で為替が変動するので、これはあくまで例)。

  円とドルを使うと、この構図は分かりやすくなります。東京・大手町でお昼にとんかつ定食を食べると1,200円、ニューヨーク・マンハッタンで昼食を普通に食べると20ドルかかるとします(実体験)。この部分だけをみると、1,200 ÷ 20 = 60 で 1ドル = 60円になってもおかしくない計算になります。物価が下落気味の日本の円が上昇(円高)し、物価が下落していない米国のドルが下落(ドル安)するのは、この点から理解できます(これもあくまで例であり、為替は様々な要因で動く)。日本の物価が変わらないのに、他国の物価が上昇すると、円高という金融現象によって調整が行われるのです。日本政府が為替介入しても、円高が止まらないのはこのためです。

  フランスとドイツの例に戻ると、水が安いフランスの通貨が買われ(上昇)、水が高いドイツの通貨が売られる(下落)はずなのですが、ユーロという単一通貨があるため、この調整が行われません。つまり、ユーロ圏はインフレ率がそれぞれ異なるのに、ユーロを通じて固定相場制を採用していることになります。

  この仕組みで問題になったのは、ギリシャでしょう。ギリシャは数年前から積極財政を続け、インフレ率が上昇していました。近年、財政赤字額の虚偽が明らかになり、ギリシャ国債の金利は大きく跳ね上がりました(価格は急落)。ギリシャ国債が債務不履行になると、ギリシャ国債を大量に保有する欧州系金融機関は大きな損失を計上することになります。ドイツ、フランス等の主要国はギリシャに資金供給してギリシャ国債の債務不履行を止めるか、ギリシャ国債を債務不履行にして損失を負うであろう金融機関に公的資金を注入するか、という決断を迫られた訳です。

  結果として、ドイツ、フランスはギリシャ救済を選択しました。「ユーロを守る」という大義名分の下にギリシャを救済する方が、選挙受けの良くない銀行救済よりも政治的に好ましいという判断が働いたのでしょう。日本が2年前にIMFに対して10兆円資金提供する時、メディアは特に何も言わなかったのですが、98年、99年に同額を銀行に注入した時は大騒ぎになりました。この点は古今東西、似ている部分があるのかもしれません。

  ギリシャ救済時に話題になったのは、仏大統領サルコジです。サルコジは独メルケル首相に対して、「ギリシャ救済を認めなれば、フランスはユーロから離脱する」と迫ったと報道されました。しかしながら、フランスがユーロから離脱するためにはユーロ全加盟国の承認が必要であるため、このサルコジの発言が本当かどうか疑った記憶があります。サルコジは一人で「離婚する」と言っているのと同じで、彼の私生活ではそのようなことが可能だとしても、ユーロ離脱は相手の同意が必要なのです(しかも複数)。

  一部報道で、「ギリシャがユーロから離脱するのではないか」というものがありますが、この場合でもユーロ加盟国の同意が必要で、ギリシャ一国で決められることではありません。色々と言われるユーロですが、使い勝手が良いこともあり、離脱国が出るとしてもこの1、2年で起こるとは考えにくく、10年、20年単位で今後の方向性が議論されるでしょう。第二次大戦の悲劇を繰り返さないため、ユーロという愛で経済統合を図った欧州。しかしながら、人間と同じで愛は壊れやすく、持続させるのは難しいようです。
  

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